精神科OTのブログ(仮)

精神科OTのブログ(仮)

精神科の作業療法士が知見や考えをシェアしています。

ロジャーズによる面談の方向付け

f:id:Ioriiba:20210405233809p:plain

今日も職場で動機づけ面接(MI)勉強会やりました。

今日の話題はチェンジトーク(変化に向かう言葉)の認識です。

 

しかし、チェンジトークと言うからには、目標となる変化、”標的行動”が必要になります。的が無ければ、正しい軌道がわかりません。標的行動なくしてチェンジトークはありません。もっと言えば、標的行動が無ければMIにはなりえません。

 

日常的に患者さんと面談する場合、標的行動ははっきりしていないケースも多いわけです。とにかく困った感じがあって相談してくるけども、内容がまとまらなくてどうしたいのかよくわからないケースです。

ここでは、聞き返しに徹し、サマライズして返し、フォーカスを一緒に絞っていく作業が必要になります。

 

標的行動は初めから決まっている場合もあります。例えば、アルコール使用障害における減酒や断酒、統合失調症における抗精神病薬の服薬、糖尿病における食事管理などです。

 

患者さんが「酒飲んで死にたい」と希望しても、「酒止めたら自殺すると思う」と言っても、”酒を止めることが患者さんの利益になるはずだ”、という専門家としての信念のもと、減酒や断酒に方向付けるわけです。

 

判断基準は患者さんの利益です。何が患者さんの福利になるのかは究極的にはわからないと思いますが、それでも特定の方向に患者さんを動機づけようとするのがMIの特殊な部分かと思います。

 

ただ、ここで面白い知見があります。

来談者中心療法のロジャーズだって実は面談の方向付けをしているんじゃないのかい?という研究があります。

来談者中心療法と言えば、面接者の考えや意図を排し、患者さんの話に受容的に無批判に耳を傾け共感していくことで、患者さん自身が問題を整理し、解決していけるようになるんだ、という考え方のはずです。

 

しかし、ロジャーズの共同研究者であったトラックスは別の視点から、ロジャーズの面接を分析しました。

ロジャーズの面接のテープを聞き、細かく分析していくと、患者さんが論理的で真っ当な話をした時にはロジャーズはあたたかく優しい応答を示し、患者さんの発言を選択的に強化しているようだ、ということがわかったのです。

Truax,C.B.(1966)Reinforcement and non-Reinforcement in Rogerian psychotherapy.

 

もちろんロジャーズ自身はそのようなことをしているつもりはなかったわけです。意図があるかどうか、狙い通りかどうかは別としても、どんな面接者も患者さんの方向性に影響を与えてしまうということのようです。そのことに自覚的になって、どうせ与えるなら良い影響を与えようというのがMIなのかもしれません。

 

面接は相互作用だ、という前提については過去記事にもあります。

 

ioriiba.hatenablog.com

 

 

 

 

聞き返しの強弱

 

今日も職場で動機づけ面接勉強会がありました。

 

今日のテーマは聞き返しの強弱でした。

強弱ってなんだよ、って感じですが、ざっくり言うと、クライエントの言ったことをぼかし、程度を下げて伝え返すのが弱めの聞き返し。逆にクライエントの言ったことを増幅させ、程度を上げて伝え返すのが強めの聞き返しです。

 

結論から言うとチェンジトークに対しては弱めに聞き返したほうがいいです。

 

Cl「体のことも気になるし、休肝日は作ったほうがいいかなと思うんです」

Th「健康のこととかお酒の飲み方とか、うっすら気になり始めた感じ

Cl「うっすらっていうか、けっこう気になってますね、さすがに毎日飲んでる人って周りにはいないみたいだし、血液検査に引っかかったら恥ずかしいし」

 

「うっすら」「~な感じ」のような言葉で弱めに聞き返すと、クライエントは自分が言った言葉をより強く認識することになり、さらにチェンジトークを話す可能性があります。

 

ちなみにチェンジトークに対して強めに聞き返してしまうと、せっかくのチェンジトークがしぼんでしまったり、逆に維持トークを引き出してしまう可能性があります。

 

Cl「体のことも気になるし、休肝日は作ったほうがいいかなと思うんです」

Th「すばらしい!、大きな病気になる前に休肝日をしっかり設定しようと思っているのですね

Cl「いや、さすがにまだ病気にはならないと思います、まだしばらくは大丈夫だと思いますけどね、休肝日って言っても、お酒飲めないのもストレスですからね」

 

勉強会の中でも話題になりましたが、面接者はクライエントからチェンジトークが出るとついうれしくなって、無意識のうちに強めに聞き返してしまう傾向があります。あるいは、さらにチェンジトークを増幅させようという気持ちで、つい強めに聞き返してしまう傾向にあります。

 

 

 

もう一つ、維持トークを減弱させるために強めの聞き返しが有効な場合があります。

 

Cl「休肝日って言っても、お酒飲めないのもストレスですからね」

Th「お酒飲まないとイライラして眠れなくなっちゃったり

Cl「うーん、それは無いですけどね、むしろ飲まない方が睡眠の質は上がるんじゃないですか」

 

有効だからといって強めの聞き返しばかりを使うと雰囲気悪くなるので、ほどほどにしておいたほうが良いです。面接者のフラストレーションをぶつけるかのように強めの聞き返しばかり使ってはなりません。

 

ミラーは強めの聞き返しについて、維持トークを減弱させるテクニックというよりは、クライエントへの純粋な興味に基づいていると言っている、ということもどこかで聞いたことがあります。

動機づけ面接を習う人がテクニックに走り、来談者中心的なスピリットを忘れがちということで、近年はそれを修正するようなことを繰り返し言っているようですね。

 

ちなみに維持トークに弱めに聞き返すと、どうなるんでしょう。

 

Cl「休肝日って言っても、お酒飲めないのもストレスですからね」

Th「お酒飲めないのはちょっとストレスかもしれない

Cl「いや、だいぶストレスですよ、だって飲むのが習慣ですからね」

 

 

 

精神科の患者さんは自身の精神病症状についてあまり多くを語ろうとしない傾向があります。幻覚妄想状態や躁状態におけるエピソードについては特にそうです。

 

で、少し語ってくれた時にそのまま聞き返したり、強めに聞き返したりしてしまうと、語りを止めてしまうことがあります。

 

Cl「お金を使っちゃったりね」

Th「あ~、お金使いすぎちゃったりしたんですね

Cl「いや、してないけどね、必要なもの買っただけだから」

 

語りを続けて欲しかったら弱めのほうがいいかもしんないです。

 

Cl「お金を使っちゃったりね」

Th「少し使ったりもあったかも

Cl「そうそう、車買っちゃってね、その時はハイになってて」

 

 

 

アルコール使用障害の患者さんが酒飲んでない時も弱めの聞き返しがいいと思う件は過去記事に書いています。
ioriiba.hatenablog.com

 

 

 

自殺の対人関係理論と実際の感覚

精神科のスタッフとして頭に入れて置いた方がいいなと思うものの一つにJoinerの「自殺の対人関係理論」があります。一方、実際に患者さんが亡くなってしまうと、「まさか」と思うし、それを予測し介入することはおそらくできなかっただろうなと思ったりもするわけです。

 

以前、仕事で自殺対策について調べる機会がありました。自殺対策でみんながまず気にすることは、自殺のリスクを評価するスクリーニングツールのようなものはないのか?ということです。

 

しかし、そのようなツールは基本的には無いということはちょっと調べればわかります。精神科救急学会などが出しているガイドラインに載っているチェックリストなどを元にアセスメントすることはできるでしょうが、それはあくまで参考にするためのリストであり、それに当てはまるかどうかで自殺を予測できるわけではありません。

 

そんな中、ある程度研究によって支持もされていて、頭の片隅に入れておくと自殺リスクの評価に役立つだろうな、と思えるのが「自殺の対人関係理論」です。

 

Joinerは自殺に必須な自殺願望は2つの要素が組み合わさることによるとしています。

・負担感の知覚

・所属感の減弱

 

負担感の知覚とは「自分が生きていることで他人に迷惑をかけている」という認知。

所属感の減弱とは「社会や他人との結びつきが無い」ことを指しています。

 

しかしながら、自殺願望があるだけでは自殺は起こりません。Joinerは最終的に死への恐怖を乗り越えさせる因子を「自殺潜在能力」と呼んでおり、自殺潜在能力に自殺願望が加わった時、自殺が起こりやすくなるとしています。

f:id:Ioriiba:20210329223250p:plain

自殺潜在能力とは、後天的に身に付いたもので、痛みへの鈍感さ、死の恐怖への慣れ、大胆さの増大といったものを指します。繰り返す自殺企図や自傷行為などが練習になり、自殺潜在能力を高めるわけです。あるいは、被虐待や戦闘経験、痛みを伴う病気の経験といったものも自殺潜在能力を高めるとしています。

 

ポイントは3つなので、頭に入れておけると思います。自殺企図歴がある患者さんというのは注意すると思うのですが、それは自殺潜在能力の有無を評価しているということになります。

 

これは私の感覚ですが、自殺潜在能力を示すのは何も自傷や自殺企図だけでなく、これまでは無かった大胆な行動や軽犯罪のような行為、自暴自棄な態度などによっても示唆されているのではないかと思います。また、自殺潜在能力は固定しているというイメージですが、現在進行形で高まっていってるな、という視点も重要な気がします。

 

もちろん自傷や自殺企図の繰り返しがあればハイリスクということはわかります。そうではなくて、以前はみられなかったような「え?」という行動がある、そしてちょっと頻度や強度、バリエーションが増してきた、でもそこから自殺を連想することはできない。なんだかおかしいな、という日々が続いたある日、突然亡くなってしまう、のような展開です。

 

あの時自殺を予測して、適切な介入ができたのかと言えば、それは無理だったかもしれない。でも後方視的にみれば、自殺の対人関係理論に当てはまってるな、ということはあります。患者さんの行動がおかしいのはわかりつつも、それが徐々に起こるので、支援者側も慣れてきてしまう、というのが注意点なのかなと思います。

 

あと、最近思うのは、この自殺の対人関係理論、自殺ではなく犯罪行為などに置き換えても捉えることができそうだな、とも思います。

尺度化の質問

f:id:Ioriiba:20210324232524p:plain

先日、職場での動機づけ面接勉強会がありました。

 

内容は「引き出す質問」と「リアルプレイ」。

 

引き出す質問とはチェンジトーク(特定の行動変容に向かう発言)しか答えられない質問のことです。

 

引き出す質問→聞き返し→聞き返し→引き出す質問→聞き返し→聞き返し

 

のペースで話を進めていけば、だいたい動機づけ面接になります。

 

(リアルプレイというのは面接者役と相談者役に分かれるけれども、相談者役は自分自身のことを本当に相談するというものです。)

 

引き出す質問の形はいろいろあるけれど、「尺度化の質問」についてはちょっとだけ細かく検討しました。

 

尺度化の質問は、作業療法の領域で言うとCOPMとかがまさにそうです。精神科領域では全般的な体調、幻聴の程度、気分、不安、薬の飲み心地などいろいろなテーマを尺度化でたずねることがあります。

行動変容の重要度に関するものなら「あなたにとって〇〇することはどれくらい重要ですか?、全く重要でないが0、超~重要が10だとしたら?」のような形となります。

 

例えば、クライエントの答えが「7」だとしたら、その後どう話題を展開すればよいでしょう?

 

正しい答えはありませんが、動機づけ面接の原理から言ってやってはいけないのは、「どうして8や9じゃないんですか?」と高い方と比較して理由を尋ねることです。

 

クライエントの答えは行動変容しない理由になるからです。

 

尺度化の質問をするならセットでやった方がいいのは、「どうして5や6ではなく7なんですか?」と低い方と比較して理由を尋ねることです。

 

クライエントの答えは行動変容したほうがいい理由(チェンジトーク)になるからです。

 

行動変容の自信度について「あなたにとって〇〇することの自信はどれくらいありますか?、全くないが0、めっちゃあるが10だとしたら?」とたずねる場合もあります。

 

この場合、低い方と比較して理由を尋ねるのはもちろん、「7から7.5とか8とかにアップするには、どんな方法や助けがあるといいでしょう?」と尋ねることが有効になってきます。

 

うまくいけばクライエントなりのスモールステップのアイデアが語られます。

 

 

 

 

心理教育のコツ~自律性の強調~

Adherence Therapyのマニュアルを見ていくシリーズです。

 

PROCESS SKILLS

  • Working collaboratively
  • Set a clear agenda
  • Emphasise personal choice and responsibility
  • Enhanced self-efficacy
  • Build self-esteem
  • Safety

 

今日はEmphasise personal choice and responsibilityいってみます。

 

個人の選択と責任を強調する、ということですが・・・。

 

とりあえずマニュアルの解説を直訳、長いので抜粋です。

 

「薬を飲むか飲まないかは最終的には患者が決めることであり、患者が治療者のねらいに反する決定をしてもそれは仕方ないことである。アドヒアランスセラピーは 患者が治療についての情報を得た上で個人的な選択をし、その選択に責任を持てるようにする。情報に基づいた意思決定をすれば、長期的にその意思決定に従う可能性が高い。」

 

この中には2つのねらいがあるのかなと個人的には思います。

 

1つ目は、治療者が両価性の一方、つまり薬を飲む方向に加担しないようにすること。

2つ目は、患者さんが主体的に治療に取り組む姿勢を育むことです。

 

実際にどうすればいいのかと言えば、

「薬についてどうするかは最終的にはあなたが決めることです」

「私があなたに薬を飲ませることはできません」

そういったことを率直に認める発言をする、ということと思います。

 

アルコールなら、

「お酒についてどうするかは最終的にはあなたが決めることです」

「私があなたに酒をやめさせることはできません」

と入れ替えられます。

 

私は、患者さんに何かを提案したり、選択肢を示したりする場合に「どうするかは○○さん次第なんですけど・・」と挟んでから言うことが多いです。あるいは提案した後すぐに「もちろん、そうするかは○○さんが決めることですが」などと付け足します。

 

情報提供の前後にも使えますが、不協和と言って患者さんが気を悪くした時、特に結論を押し付けられていると感じている様子がある時にも有効だと思います。

 

そして、日本語の「責任」と英語の「responsibility」はニュアンスが違うようなんですね。日本語の責任とはなんとなく結果に対する責任という感じですが、英語のresponsibilityは自分で自分の行為を操縦していく、みたいなニュアンスらしいのです。

 

だから、薬を飲まなかった結果具合が悪くなっても患者さんの責任とか、そういう意味じゃないんでしょうね。薬を飲むも飲まないも、自分の決定に従って行動していくという、アクティブなイメージの責任です。

 

自律性を強調する発言は患者さんを見放しているようにも見えるかもしれません。一方で、「あなたには自分のことを自分で決める力、そしてそれに従ってやっていく力があるよ」という是認でもあると思います。

 

でも、中途半端に自律性を強調すると「OTの人に薬飲まなくてもいいって言われた」とかって勝手な解釈されるんじゃないか、とかいう心配が出てくるんですよね。

 

専門家としてのアドバイスと自律性の強調は両立するけどもはっきり伝えなければいけないでしょうね。

「精神科の専門家としては薬を飲むことを勧めます、ただし実際にどうするか最終的にはあなたが決めることです」

 

治療者、支援者の立場では患者さんがこちらに従うのが当たり前という思い込みが出てくるんじゃないかなと思います。アドヒアランスとかコンプライアンスという言葉はそういった前提にあるものです。

 

自律性を強調する言葉を言うのは治療者として抵抗が出てくるし、難しいことですが、患者さんのことをコントロールできるという幻想を手放すおまじないとしても有効だと思います。

 

私はそう思っていますが、もちろん取り入れるかどうかは人それぞれです。

 

 

 

 

大人の発達障害と大人になった発達障害

「大人の発達障害」が流行し、自ら精神科医療機関を受診する人は多いけども、支援の現場でお会いすることは少ないです。一方、「大人の年齢になった発達障害」の方への支援は困難を極めることがあるというテーマです。

 

「大人の発達障害」という言葉が使われ始めたのはいつ頃からなのでしょうか。

 

アマゾンで「大人の発達障害」と検索し、出版年が古い順に並び変えると2010年前後から「大人の発達障害」が題名に入る書籍が出てきますね。

 

2013年、DSM5への改定では発達障害(神経発達症)の概念が大幅に変更されているのですが、ミソになるのはこの辺りなのかなと思います。

自閉スペクトラム症ASD:従来のアスペルガー症候群や広汎性発達障害)とAD/HDは従来は診断を併記できなかったが、DSM5からは併記できるようになった

・AD/HDは12歳以前にエピソードがあれば診断して良いことになり、症状が減弱した大人に対しても診断しやすくなった

 

それと呼応するのはAD/HD治療薬の成人(18歳以上)への適応拡大です。

コンサータメチルフェニデート):2011年(ヤンセンファーマ

ストラテラ(アトモキセチン):2012年(イーライリリー)

・インチュニブ(グアンファシン):2019年(塩野義)

 

各製薬会社は人類の健康と幸福のために薬を作って売っているわけですが、企業は利益を追求する存在でもあります。

薬の適応を拡大し販路を広げるためには消費者(患者)の掘り起こしが必要で、そのようなプロモーション活動は「疾患啓発(disease awareness)」もしくはそれを揶揄した言い方の「疾患喧伝(disease mongering)」と呼ばれます。

「大人の発達障害」流行の背景にはこのような事情も含まれているでしょう。

 

ある程度の社会適応はすでにしているものの、自身の「生きづらさ」の原因を発達障害に求め、自ら精神科医療機関を受診する方は多いようですが、むしろ有害な投薬を受けるようなことが無ければよいなと思います。

 

 

一方、「大人の年齢に達した発達障害」の方が社会への適応困難を一層強めた結果、問題が重大かつ複雑になり、我々の支援の現場で出会うことはまあまああるかなと思います。

 

特別支援学校などを卒業した方の中には当然進学や就職ができない方もいます。その受け入れ先として昨今活用されているのは自立支援法に基づく就労継続支援事業所だったりします。

 

構造がはっきした学校という場からの環境変化で不適応を強め、二次障害として精神疾患を発症する方もいるし、問題行動が重大になってきて多面的な支援が必要になる方もいます。

 

我々の支援の現場に登場する「発達障害」の方々は、外来診療だけでは改善しないということなので、その時点で問題は重大で複雑化しています。ズバッと解決することはまずありませんが、個人と環境との相互作用を丁寧に分析して、できそうなことを探していくほかないです。

 

最近、特別支援学校の先生と話す機会がありましたが、卒後の支援をかなりやっているようでびっくりしました。顔も知らない数年前の卒業生のために謝りに行くとか、そういうことが当然のようにあるんだとか。大変な仕事だなと思います。

 

 

 

アルコール量のグラム表記

飲料メーカー各社がアルコール飲料におけるアルコールのグラム表記を行っていく方針で検討しているようです。

 

news.yahoo.co.jp

 

アルコール飲料では通常、アルコール度数がパーセンテージで表記されています。

 

おそらく、これに加えてということだと思いますが、アルコール量のグラム表記もされるようになるようです。

 

適正な飲酒量というのは文化や人種によって違いますが、わが国では純アルコール20グラムとされています(女性や顔が赤くなる体質の人はその半分の10グラム)。また、40グラム以上では飲みすぎとされています。(30グラムだったらどうなんでしょう?)

 

また、アルコール量は「ドリンク」という単位で表現されることもあります。これは基準飲酒量とも呼ばれるもので、わが国では1ドリンク=10グラムと規定されています。(ちなみにアメリカは14グラムだそうな)

 

なので、男性なら2ドリンクまで、女性やフラッシャー(顔が赤くなる体質)の方は1ドリンクまでにしておくのが適正飲酒ということになります。

 

アルコール20グラム(2ドリンク)というのは、

ビール(5%)なら500㎖

チューハイ(7%)なら350㎖

日本酒(15%)なら180㎖(1合)

などです。

 

このように、酒の種類(アルコール度数)によって適正な飲酒量が変わってきます。

 

適正飲酒量が20グラム(2ドリンク)ということを知っていれば、手にしたパッケージのグラム表記を見て「ああ、これ一本にしといたほうがいいのかぁ」みたいなことがすぐわかるということですね。

 

ストロングだと350mlで余裕で適正越えちゃいますが…。

 

昨今、ストロング系アルコール飲料の有害性などがメディアでも指摘されるようになりました。国立精神神経医療研究センターの松本俊彦先生による問題提起が広くシェアされたことが記憶に新しいです(元はと言えば松本先生は他の方の意見をリツイートしただけらしいですが)。

 

また、それに応えるようにオリオンビールではストロング系飲料の販売停止を決めましたし、逆に健康に配慮したアルコール飲料として2%のチューハイが発売されるらしいです。

 

アルコールと健康に関する意識が全体として高まってきていることは確かのようです。

 

その背景にはDSM5におけるアルコール使用障害の概念がその裾野を広げたことがあるでしょう。

 

これまでの依存症概念はより重症な患者さんを指しており、治療についても断酒一択しかないとされていました。

 

対して、使用障害という概念は軽症から中等症の問題飲酒者の方も治療の対象とし、有害性の少ない飲み方に回帰する減酒という手段も選べるようになりました。(減酒補助薬を売る製薬メーカーが儲かるためでなければよいのですが・・・)

 

このような流れの中で広まっている問題飲酒のスクリーニングツールがAUDIT(Alcohol Use Disorders Identification Test)で、Web上でも簡単に自己チェックができます。

 

AUDITは10項目の質問に答える方法ですが、そのうち冒頭の3項目だけに答えればよいというAUDIT‐Cと呼ばれるより簡便な方法もあり、臨床上は有用かなと思います。

↓こちらはドリンク換算表も載っているので、自己チェックされてみてはいかがですか?

kurihama.hosp.go.jp

 

ただ、患者さんは実際の飲酒量を正直に言わないことが多いので、その辺の聞き方についてもまた紹介したいと思います。