精神科OTのブログ(仮)

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大人の発達障害と大人になった発達障害

「大人の発達障害」が流行し、自ら精神科医療機関を受診する人は多いけども、支援の現場でお会いすることは少ないです。一方、「大人の年齢になった発達障害」の方への支援は困難を極めることがあるというテーマです。

 

「大人の発達障害」という言葉が使われ始めたのはいつ頃からなのでしょうか。

 

アマゾンで「大人の発達障害」と検索し、出版年が古い順に並び変えると2010年前後から「大人の発達障害」が題名に入る書籍が出てきますね。

 

2013年、DSM5への改定では発達障害(神経発達症)の概念が大幅に変更されているのですが、ミソになるのはこの辺りなのかなと思います。

自閉スペクトラム症ASD:従来のアスペルガー症候群や広汎性発達障害)とAD/HDは従来は診断を併記できなかったが、DSM5からは併記できるようになった

・AD/HDは12歳以前にエピソードがあれば診断して良いことになり、症状が減弱した大人に対しても診断しやすくなった

 

それと呼応するのはAD/HD治療薬の成人(18歳以上)への適応拡大です。

コンサータメチルフェニデート):2011年(ヤンセンファーマ

ストラテラ(アトモキセチン):2012年(イーライリリー)

・インチュニブ(グアンファシン):2019年(塩野義)

 

各製薬会社は人類の健康と幸福のために薬を作って売っているわけですが、企業は利益を追求する存在でもあります。

薬の適応を拡大し販路を広げるためには消費者(患者)の掘り起こしが必要で、そのようなプロモーション活動は「疾患啓発(disease awareness)」もしくはそれを揶揄した言い方の「疾患喧伝(disease mongering)」と呼ばれます。

「大人の発達障害」流行の背景にはこのような事情も含まれているでしょう。

 

ある程度の社会適応はすでにしているものの、自身の「生きづらさ」の原因を発達障害に求め、自ら精神科医療機関を受診する方は多いようですが、むしろ有害な投薬を受けるようなことが無ければよいなと思います。

 

 

一方、「大人の年齢に達した発達障害」の方が社会への適応困難を一層強めた結果、問題が重大かつ複雑になり、我々の支援の現場で出会うことはまあまああるかなと思います。

 

特別支援学校などを卒業した方の中には当然進学や就職ができない方もいます。その受け入れ先として昨今活用されているのは自立支援法に基づく就労継続支援事業所だったりします。

 

構造がはっきした学校という場からの環境変化で不適応を強め、二次障害として精神疾患を発症する方もいるし、問題行動が重大になってきて多面的な支援が必要になる方もいます。

 

我々の支援の現場に登場する「発達障害」の方々は、外来診療だけでは改善しないということなので、その時点で問題は重大で複雑化しています。ズバッと解決することはまずありませんが、個人と環境との相互作用を丁寧に分析して、できそうなことを探していくほかないです。

 

最近、特別支援学校の先生と話す機会がありましたが、卒後の支援をかなりやっているようでびっくりしました。顔も知らない数年前の卒業生のために謝りに行くとか、そういうことが当然のようにあるんだとか。大変な仕事だなと思います。