心理教育のコツ~自律性の強調~
Adherence Therapyのマニュアルを見ていくシリーズです。
PROCESS SKILLS
- Working collaboratively
- Set a clear agenda
- Emphasise personal choice and responsibility
- Enhanced self-efficacy
- Build self-esteem
- Safety
今日はEmphasise personal choice and responsibilityいってみます。
個人の選択と責任を強調する、ということですが・・・。
とりあえずマニュアルの解説を直訳、長いので抜粋です。
「薬を飲むか飲まないかは最終的には患者が決めることであり、患者が治療者のねらいに反する決定をしてもそれは仕方ないことである。アドヒアランスセラピーは 患者が治療についての情報を得た上で個人的な選択をし、その選択に責任を持てるようにする。情報に基づいた意思決定をすれば、長期的にその意思決定に従う可能性が高い。」
この中には2つのねらいがあるのかなと個人的には思います。
1つ目は、治療者が両価性の一方、つまり薬を飲む方向に加担しないようにすること。
2つ目は、患者さんが主体的に治療に取り組む姿勢を育むことです。
実際にどうすればいいのかと言えば、
「薬についてどうするかは最終的にはあなたが決めることです」
「私があなたに薬を飲ませることはできません」
そういったことを率直に認める発言をする、ということと思います。
アルコールなら、
「お酒についてどうするかは最終的にはあなたが決めることです」
「私があなたに酒をやめさせることはできません」
と入れ替えられます。
私は、患者さんに何かを提案したり、選択肢を示したりする場合に「どうするかは○○さん次第なんですけど・・」と挟んでから言うことが多いです。あるいは提案した後すぐに「もちろん、そうするかは○○さんが決めることですが」などと付け足します。
情報提供の前後にも使えますが、不協和と言って患者さんが気を悪くした時、特に結論を押し付けられていると感じている様子がある時にも有効だと思います。
そして、日本語の「責任」と英語の「responsibility」はニュアンスが違うようなんですね。日本語の責任とはなんとなく結果に対する責任という感じですが、英語のresponsibilityは自分で自分の行為を操縦していく、みたいなニュアンスらしいのです。
だから、薬を飲まなかった結果具合が悪くなっても患者さんの責任とか、そういう意味じゃないんでしょうね。薬を飲むも飲まないも、自分の決定に従って行動していくという、アクティブなイメージの責任です。
自律性を強調する発言は患者さんを見放しているようにも見えるかもしれません。一方で、「あなたには自分のことを自分で決める力、そしてそれに従ってやっていく力があるよ」という是認でもあると思います。
でも、中途半端に自律性を強調すると「OTの人に薬飲まなくてもいいって言われた」とかって勝手な解釈されるんじゃないか、とかいう心配が出てくるんですよね。
専門家としてのアドバイスと自律性の強調は両立するけどもはっきり伝えなければいけないでしょうね。
「精神科の専門家としては薬を飲むことを勧めます、ただし実際にどうするか最終的にはあなたが決めることです」
治療者、支援者の立場では患者さんがこちらに従うのが当たり前という思い込みが出てくるんじゃないかなと思います。アドヒアランスとかコンプライアンスという言葉はそういった前提にあるものです。
自律性を強調する言葉を言うのは治療者として抵抗が出てくるし、難しいことですが、患者さんのことをコントロールできるという幻想を手放すおまじないとしても有効だと思います。
私はそう思っていますが、もちろん取り入れるかどうかは人それぞれです。