精神科OTのブログ(仮)

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ロジャーズによる面談の方向付け

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今日も職場で動機づけ面接(MI)勉強会やりました。

今日の話題はチェンジトーク(変化に向かう言葉)の認識です。

 

しかし、チェンジトークと言うからには、目標となる変化、”標的行動”が必要になります。的が無ければ、正しい軌道がわかりません。標的行動なくしてチェンジトークはありません。もっと言えば、標的行動が無ければMIにはなりえません。

 

日常的に患者さんと面談する場合、標的行動ははっきりしていないケースも多いわけです。とにかく困った感じがあって相談してくるけども、内容がまとまらなくてどうしたいのかよくわからないケースです。

ここでは、聞き返しに徹し、サマライズして返し、フォーカスを一緒に絞っていく作業が必要になります。

 

標的行動は初めから決まっている場合もあります。例えば、アルコール使用障害における減酒や断酒、統合失調症における抗精神病薬の服薬、糖尿病における食事管理などです。

 

患者さんが「酒飲んで死にたい」と希望しても、「酒止めたら自殺すると思う」と言っても、”酒を止めることが患者さんの利益になるはずだ”、という専門家としての信念のもと、減酒や断酒に方向付けるわけです。

 

判断基準は患者さんの利益です。何が患者さんの福利になるのかは究極的にはわからないと思いますが、それでも特定の方向に患者さんを動機づけようとするのがMIの特殊な部分かと思います。

 

ただ、ここで面白い知見があります。

来談者中心療法のロジャーズだって実は面談の方向付けをしているんじゃないのかい?という研究があります。

来談者中心療法と言えば、面接者の考えや意図を排し、患者さんの話に受容的に無批判に耳を傾け共感していくことで、患者さん自身が問題を整理し、解決していけるようになるんだ、という考え方のはずです。

 

しかし、ロジャーズの共同研究者であったトラックスは別の視点から、ロジャーズの面接を分析しました。

ロジャーズの面接のテープを聞き、細かく分析していくと、患者さんが論理的で真っ当な話をした時にはロジャーズはあたたかく優しい応答を示し、患者さんの発言を選択的に強化しているようだ、ということがわかったのです。

Truax,C.B.(1966)Reinforcement and non-Reinforcement in Rogerian psychotherapy.

 

もちろんロジャーズ自身はそのようなことをしているつもりはなかったわけです。意図があるかどうか、狙い通りかどうかは別としても、どんな面接者も患者さんの方向性に影響を与えてしまうということのようです。そのことに自覚的になって、どうせ与えるなら良い影響を与えようというのがMIなのかもしれません。

 

面接は相互作用だ、という前提については過去記事にもあります。

 

ioriiba.hatenablog.com