精神科OTのブログ(仮)

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精神科の作業療法士が知見や考えをシェアしています。

心理教育のコツ~自信を高める~

Adherence Therapyのマニュアルを少しずつ読むシリーズです。

 

PROCESS SKILLS

  • Working collaboratively
  • Set a clear agenda
  • Emphasise personal choice and responsibility
  • Enhanced self-efficacy
  • Build self-esteem
  •  Safety

 

今日はEnhanced self-efficacyです。薬をきちんと飲む自信度に関する項目になります。

 

まずは直訳、

「ここでいう自己効力感は薬を効果的に服用し、病気にうまく対処できるという患者自身の自信です。服薬に対する患者の自己効力感を高めることで、服薬アドヒアランスを高めることができます。このアプローチは、患者さんが有用なスキルを身につけられるように、実践的で実用的な方法をとることで自己効力感を向上させることを目的としています。現実的な小さな目標を設定し、成功体験を積んだり、過去の成功を振り返ることで効果を高めていきます。」

 

従来からの教育的アプローチは、薬を飲む必要性を教える、理解させるといったこと目的にしていますが、教育的な要素しかないプログラムに統合失調症の服薬アドヒアランスを向上する効果は無いと結論されています。

 

研究によってある程度支持されているのは、動機づけ面接の技法を応用したプログラムのほか、飲み忘れを防ぐリマインダーや服薬のきっかけ(Cue)の設定、強化随伴性を設計といった行動的なコンポーネンツを併せ持ったプログラムです。

 

薬を飲む理由や重要性だけでなく、具体的な方法や自信度という側面もフォローする必要がありそうです。

ioriiba.hatenablog.com

 

薬を忘れずに飲む方法としては、家族や訪問看護のスタッフにも確認してもらうという方法があります。患者さんの受け入れが良ければいいですが、中には確認されるのはわずらわしい、監視されているようで嫌だ、という人もいます。

 

その点、持効性注射剤(LAI)の導入によって「家族から確認されなくなってラクになった」と言う話はいくつか聞いたことがあります。

 

スタッフ側からよく提案するのは、服薬カレンダーの設置です。目に入るので気が付きやすいし、訪問看護のスタッフもいちいち「飲んでますか?」って聞かなくても服薬確認できるので良い、という場合もあるようです。ただ、しっくりこない、なんか使いたくないという患者さんもいます。

 

調べてないのでわかりませんが、服薬管理をするスマホアプリなんかもあるでしょうから、使える患者さんには良いかもしれません。

 

いずれにしてもこれらの方法はスタッフ側から一方的に提案するのではなく、まずは患者さんにアイデアを聞いたり、これまで上手くできていた方法をたずねることが協働的な進め方だと言えます。

 

次に、自信を高めるコミュニケーションとはどのようなものでしょうか。

繰り返しになりますが、まずは患者さん自身の成功体験、うまくやれていた時はどのような方法だったのかなどをたずねます。そして、出てきたものについてさらに詳しく聞いて具体的にしたり、是認(良いところを認める発言をする)することもできます。

 

自信度に関して尺度化の質問を用いて引き出すのも有効な方法だと思います。こちらは過去記事にもあります。尺度化の質問は単なるアセスメントで終わらせるのはもったいない方法です。

 

ioriiba.hatenablog.com

 

 

次にスタッフから見た患者さんの強み、できているところについて言及してもよいと思います。

 

精神科病棟の看護師さんがよく注目するのは頓服薬の使い方です。自分から頓服薬を飲みたいと希望する患者さんには「対処行動ができている」と高評価だったりします。

 

あまり話を聞かずに二言目には頓服を勧めるというのはいかがなものか、と思いますが、患者さんがご自身の体調変化に気づき、自己コントロールしようとする姿勢を育むのは大切なことでしょうから、その点をしっかりフィードバックし是認していくのは大事かもしれません。

 

また、入院中は服薬の自己管理を指導するのも看護師さんの重要な役割だと思います。ここでのコミュニケーションが協働的なものになるだけで患者さんの服薬アドヒアランスは高まるんじゃないかな、と思います。

 

服薬に限らず、不調を感じた際に早めに受診するとか、相談をするといった行動クラスも強化したいものです。

「ご自身の体調変化に気づいたんですね」

「早めに相談してくれてありがとうございます」

「体調管理への意識が高いですね」

などと言っていけるといいかもしれないです。

 

このように、服薬アドヒアランスについて、方法や自信という側面から見た場合、病気の自己コントロールやセルフマネジメントといった要素と絡めて考えていけるといいのかもしれません。

 

 こうして書いてみると、特段めずらしい内容ではなく、精神科のスタッフはごく自然にやっていることなのかもしれません。

 

ただ、こと「心理教育」と言うと、一方的な説明やアドバイス、教育的指導に終始してしまうことが多くなりがちなので、片手落ちにならないようにしたいところです。