精神科OTのブログ(仮)

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精神科の作業療法士が知見や考えをシェアしています。

病識はある方が良いのか

精神科医療では患者さんに病識を求めがちです。

 

患者さんにご自身の病気について正しく理解してもらい、マネジメントに努めてほしいと願うのは当然のことです。しかし、患者さんが病識を持たないことにも意味があるのかもしれません。

 

Lysaker(2018)は統合失調症の病識に関するレビューの中で、病識は抗精神病薬の受け入れや治療同盟に関連しており、病識が低いことは症状が悪化しやすいこと、社会的機能を低下させるとしています。

 

一方で、優れた病識は患者さんに苦痛をもたらし、幸福感を損ない、抑うつ状態をもたらす可能性があるという、いわゆる”Insight Paradox”が以前から指摘されており、多くの研究でも同様の知見が得られているとしています。セルフスティグマや将来を悲観する傾向によって強まることを指摘している研究もあります。

 

それだけでなく、優れた病識は自殺の危険因子にもなることが指摘されています。

初回エピソードにおける病識は自殺のリスクを増加させ、1年後のフォローアップでの病識は自殺のリスクを減少させるとしている研究もあるようです。

 

いずれにしても、病識と自殺リスクの関係は抑うつ状態が媒介していることが指摘されています。

 

ioriiba.hatenablog.com

 

 

古茶大樹先生(2015)は認知症の病識を例にとり、病識が無いことがプラスにはたらく面もあることを指摘しています。つまり、自分が少しずつ生活機能を失い、周囲に迷惑をかけることを自覚したなら、生きていくことに絶望するのではないか。病識を失うことは認知症を抱えながら生きていくために必要なことともいえるのではないか、と述べています。

 

また、精神障害の場合、その病識の獲得は社会内における自己価値の傷つきに結びつきやすいことを指摘し、病識を持つことを促すメッセージを受け取る患者さんの気持ちにも配慮していくべきと述べています。

 

日頃から、あの患者さんは病識が無い、というような表現をよくするわけですが、病識といってもどの側面の病識が無いと言っているのかはっきりさせる必要があります。自分は病気じゃないと主張していても、精神科のサービスは利用してくれている場合があります。そういう方は病識が無いと言えるでしょうか?

 

ioriiba.hatenablog.com

 

 そして、病識が無いと言った時に、その患者さんはなぜ病識が持たないのか、その事情を想像してみるのもよいかもしれません。

 

lysaker(2018). Insight in schizophrenia spectrum disorders.world psychiatry.

古茶大樹(2015).病識をめぐって. 精神科治療学