精神科OTのブログ(仮)

精神科OTのブログ(仮)

精神科の作業療法士が知見や考えをシェアしています。

病識を持たせる方法はあるのか

 

そもそも病識の有無を患者さんの発言から単純に「ある」「なし」のように判定するものでもないです。

ioriiba.hatenablog.com

 

そして、患者さんに病識を持ってもらうということが、本当に必要なことなのか、病識を押し付けることへの疑問も持ったほうがいいと思います。

ioriiba.hatenablog.com

 

 

その上で、精神疾患における病識を患者さんに持たせる方法はあるのでしょうか。

 

結論から言えば、有効と言える方法は無い、ということも理解しておくのが大事なのではないかと思います。

 

ある程度病歴のある患者さんでは、急性期の薬物療法が奏功すると精神症状が改善し、それに伴って病識が改善することがあります。ただ、薬物療法が直接的に病識を改善するわけではありません。

 

いわゆる心理教育というアプローチも基本的には病識や服薬アドヒアランスを改善するという証拠はありません。
ioriiba.hatenablog.com

 

他に、心理的なアプローチとして、動機づけ面接の要素を含んだ個人精神療法がやや有望視はされていますが、一貫して効果的と言えるほどの支持はなく、アウトカムとして病識というよりは服薬アドヒアランスを評価している研究が見られます。

 また、ACTのような生活支援を含んだ濃厚なサポートも服薬アドヒアランスの改善には有効性があるとされていますが、病識の改善という視点での報告はみられません。

 

Lysakerなど病識の研究者は、患者さん自身が自分の精神症状に意味づけをしていく過程で病識が形成されるのではないか、という意見を持っています。

 

個人的な経験で言えば、病気への捉え方はどうあれ、まずは精神科のサービスを使うというところがスタートになるという印象があります。生きづらさを抱えながらもご自身なりの挑戦をしたり、落としどころを見つけたりする中で、時間をかけて病気について言及できるようになっていくような気がします。その過程は自然経過とも言えます。

 

支援者が病識を持たせようと積極的にアプローチすることは患者さんの反発を招き、自然経過を邪魔する可能性があります。病気を自覚させようとする試みは患者さんのためを思って行われることですが、患者さんにとっては自分の価値を傷つけられる体験になっている可能性も考慮すべきです。

 

だから何もしないほうがいいとは言いません。押しつけがましくない介入が患者さんと上手く相互作用できた時に病識の改善が進む可能性はあります。教え込みよりも、安心できる雰囲気の中で患者さんの病気に対する考えを引き出すようなアプローチのほうが有効と思われます。