アルコール使用障害の患者さんが「今のところ飲んでません」と言ったらどう反応するか
アルコール使用障害の患者さんが「今のところ飲んでません」と言ったら、どのように反応して言葉を返しますか?
”すごい!飲んでないんだ!”・・・?
”えらい!頑張ってる!”・・・?
もちろん絶対に正しい答えも間違った答えもありません。
患者さんは相反する2つの気持ちが同居する、両価性を抱えています。
「飲みたい」と「飲まないでいたい」です。
患者さんはこの先ずっと止め続ける決意や自信を持っているわけではありません。
支援者が「飲まないでいたい」に加担しようとすれば、患者さんは容易に「飲みたい」に傾きます。
そこで、患者さんが使っている「飲んでない」という言葉はそのままよりも弱めて返したほうがよいと考えます。
”飲まないでみているんだ”
”飲まないのを試しているんだ”
などです。
長期的な断酒への期待などはさらさら無く、飲まないことを試している、今現在たまたま、実験中、という理解をしてますよ、というスタンスです。
質問なら、
”どうして飲まないことを試そうと思ったんですか?”
などとたずねます。きっと、患者さんなりの酒を飲まない理由(チェンジトーク)をはなしてくれます。
もうひとつ、ものすごい使える質問。
”辛くないですか?”
があります。
これは、私が考えたわけでなく、とあるお医者さんが文献の中で紹介している方法です。リファレンスが思い出せないので、別な機会にまた紹介しますが、とにかくめっちゃ使える質問で、患者さんが「酒飲んでない」と言ったら私は必ずこう聞くようにしています。
で、普通は「辛い」ので、辛い気持ちに寄り添うようにします。
そして辛さへの対処はできているのか、できていないとすれば、何かできることはありそうなのかをたずねたり、一緒に考えることができます。
「失踪日記」を読んでアルコール使用障害について考えた
私はあまり漫画を読みませんし、詳しくないですが、こちらの漫画が面白いと聞いたので読んでみました。
吾妻ひでおさんは、作品を生み出し続けるプレッシャーから突然失踪し、ホームレス生活を送った経験を持つ異色の漫画家だそうです。
また、重度のアルコール使用障害の当事者でもあり、その背景に気分障害が併存していたとされています。
さて、過酷なホームレス生活ですが、作品ではとても面白く表現されていてとにかく笑えるだけでなく、その生活ぶりが詳細に描かれていて興味深いです。
そして後半は、アルコール専門医療機関に入院し、アルコールリハビリテーションプログラム(ARP)を受けた経験が描かれています。
様々な患者さんが登場してきますが、私の印象に残ったのはN村さんという男性。看護師さんに「ミニラN村」とあだ名を付けられている彼は、
・「なかよくやりましょう!」と言って自分が持っている食べ物などととにかく人にあげてしまい、何も無くなると自分のおかずまで人にあげる
・グループミーティングでは必ず「これからは1から10までやり直して真人間になります!」と同じセリフを言う
という方。
ある日外出許可が出たN村さんは抗酒薬を服用しているにも関わらずワンカップ15本を一気飲みして救急車で病院に戻ってきます。
なんだかこのN村さんにアルコール使用障害の方の悲しさが詰まっている感じがして、笑えると同時に切ない気持ちになりました。
人に気を遣い続ける生き方。本音を話すこともできない。
そんな辛さから一時的に逃避する手段がN村さんには飲酒しかないのです。
~酒は人生という手術を耐えさせてくれる麻酔薬だ~ ジョージ・バーナード・ショー
数年前に久里浜医療センターの研修に行かせてもらった時に聞いた病棟師長さんのお話を思い出しました。
退院前のミーティングで「酒をやめる」と宣言した方がすぐに再入院してくることもあれば、「俺は酒を飲む!」と宣言していった患者さんが断酒を続けていることもあるそうです。
酒をやめるという言葉よりも、本音や正直な気持ちを自由に表明できることの方が大事なのでしょうね。
そのために支援者としてはどんな関わり方ができるか、どんな環境づくりができるか、考えていかねばなりません。
はてなブログにはアルコール使用障害の当事者の方の記事も多くありますし、どこかで交流させていただき、勉強させてもらいたいな、とも思っています。
失踪日記の続編である、「失踪日記2アル中病棟」もこれから読むのが楽しみです。
心理教育のコツ~テーマ設定~
Adherence Therapyのマニュアルを見ていくシリーズです。
PROCESS SKILLS
- Working collaboratively
- Set a clear agenda
- Emphasise personal choice and responsibility
- Enhanced self-efficacy
- Build self-esteem
- Safety
今日はSet a clear agendaについて。
そのセッションにおける話題、テーマを設定することについてです。
とりあえずマニュアルから引用しますと、、、。
「患者と一緒に明確なテーマ設定を行うことで、限られた時間を有効に活用し、明確な構造と焦点を定めることができる。患者がテーマ設定に参加することで、患者は自分がある程度の所有権と制御権を持っていると感じることができる。そして、治療者はこのテーマに従おうとするべきである」
前回、Working collaborativelyについて解説したのですが、その内容とほぼ重なりますね、、、。
過去記事の繰り返しになりますが、協働的な面接≒こちらがしゃべる前に患者さんにしゃべってもらう、だと思います。
心理教育のセッションは終始協働的であるべきで、その協働性を体現する一つの場面がテーマ設定ということだと思います。
話がこれで終わってしまいそうなので、もう少し付け足します。
以前にブリーフセラピーの本で読んでから、私が面接で話題を決める時によく使う言い方なのですが、
「前回は〇〇△△という話だったと思うんですが、前回話した時から今日までの間に考えたこととかあります?」
というのがあります。
前回話した時から今日までの間に時間が経っています。だからその間に患者さんなりに何か考えてアイデアが浮かんでいたり、考えが変わっていたりする可能性も多々あります。そのズレを確認し、必要であればアジャストした上で今日の話題を決めようというわけです。
当たり前と言えば当たり前ですが、これを入れると丁寧だし、もちろん協働的でもあると思います。
三つ子の肥満、将来まで
1歳6か月のBMIより、3歳のBMIが高いと、将来の肥満、メタボリックシンドロームを予測するという研究結果が報告されています。
我が家の長女(5歳)は好き嫌いをせず何でも食べる一方、食に執着しないというか、ご飯よりも遊びや読書を優先するタイプです。
対して次女(1歳10か月)の食欲は離乳食期から爆発しており、お姉ちゃんの分も取って食べてしまう勢い。
そんな次女がぽっちゃりしてきたのではないか、長女が同じ月齢・身長の時よりもかなり体重が重いのではないか、という話になり、現在のBMI(カウプ指数)を調べたところ、18.33で”ふとりぎみ”となってしまいました。
有阪(2018)によれば、
通常、BMIは乳児期後半にかけて増加し、歩行の獲得によって運動量が増加するとともに低下しはじめ、6歳前後に最低値となります。その後は再び増加に転じ、身長の伸びが止まるまで上昇、成人値に至ります。このBMIの低下から上昇に転じる現象をAdiposity Rebound(AR)と呼びます。
このARの開始時期が早いほど、将来の肥満やメタボリックシンドロームのリスクが高まることが指摘されています。
そして、ARを早める因子としてコンセンサスがあるのは、
①親の肥満(特に母親)
②睡眠時間が10時間以下
③不動の時間が一日2時間以上
④果糖を含む飲料をよく飲む
が挙げられています。
引用文献:有阪治「幼児期:アディポシティリバウンドと生活習慣病のリスク」小児科診療、2018:(10),p1333-1338
うちの次女の場合は、たぶん②が微妙に当てはまっています。
④は、よく飲むとは言えないけども、甘いお菓子などのデビューが長女より早いことは確かです。
これまでの次女のBMIの推移をグラフ化してみました。
次女は10か月くらいから歩き始めましたが、そのころからBMIは減少しています。
しかし、1歳半くらいから上昇に転じているので、このまま放置するとARの前倒しにつながってしまいそう(汗)
なんとか踏ん張りたいところです。
2歳半で16.5~17.0、3歳で16.0~16.5くらいに戻せるとよいかな、と思います。
心理教育のコツ~患者さんと協働する~
Adherence Therapyのマニュアルを見ていくシリーズです。
Inter Personal Skillsは終わったので、次はProcess Skillsに取り掛かります。
PROCESS SKILLS
- Working collaboratively
- Set a clear agenda
- Emphasise personal choice and responsibility
- Enhanced self-efficacy
- Build self-esteem
- Safety
今日は Working collaboratively いってみようと思います。
マニュアルには「治療者と患者が協働的に意思決定を行うこと」とだけしか記載されていません。
患者さんと協働する=自分がしゃべる前に患者さんにしゃべってもらう、ということだと私は思います。
協働性を示していける場面ってたくさんあるとは思うのですが、重要なのは2つくらいだと思います。
1つは話すテーマを決める時。
今日、この時間を使って話し合うテーマを何にするかを患者さんにたずねるとよいです。
こちらが取り上げたいことは取りあえず置いて、「○○さんの方から話題にしたいことはありますか?」とまずはたずねます。
するとだいたいは「いや特に無いです」ってなります。患者さんは何かと受け身というか、治療に対して積極的に意見を言わない方が多いです。「余計なこと言うと具合が悪いと思われて入院が長引く」と思っている方も多いです。あるいは、何も言わないけど外来には真面目に通っていて、突然ふと薬飲まなくなる方とかもいます。
でも「特に無いです」でもかまわないです。まずは患者さんに委ねるということをすることに意味があります。なぜなら、そんな風に聞かれた経験があまり無いはずだから。
「なんかこの人は違うな」って思ってもらえるはずです。
患者さんが出してきた話題がこちらが話したいことと違っていても、まずは話を聞いてみるとよいです。はじめは違っていても、一周か二周回ってこちらが話したい話題に戻ってくることもあります。
例えば、就労のことを気にして話題にする患者さんは多いですが、薬飲みながら働けるのか、とか服薬や症状管理の話題に戻ることになったりします。
2つ目は、行動の計画を立てる時。
薬を飲み忘れを防ごうといいうことになり、専門家としては良い方法を提示したいという衝動が出てきます。服薬カレンダーの設置などが常とう手段で、あとは家族にも確認してもらいましょうねとか、そういうアドバイスをすぐにしたくなります。
こういう時にいったんは患者さんになにか良いアイディアがないかたずねるのも協働的です。自分に合った良い方法を思いついてくれるかもしれません。
思いつかなくても問題ないです、許可を得てこちらから提案すればいいだけです。まずは患者さんに聞くということに意味があって、「この人は自分を尊重してくれるな」と思ってもらえるでしょう。
両面の聞き返し
今日の動機づけ面接(MI)勉強会では「両面の聞き返し」を取り上げました。
両面の聞き返しとはクライエントの両価性の両方(維持トークとチェンジトーク)を並列して伝え返すものです。
CL:「やめなきゃいけないのはわかってるけど、家に帰ったら飲んでしまうと思う」
Th:「飲んでしまうと思う、一方でやめたいとも思っている」
教科書的な注意点は2つ。
こうすることでクライエントが続けてチェンジトークを話す確率を高めます。
②接続詞は「でも」「だけど」などの逆接ではなく、「一方で」などを使う。
MIはクライエントの両価性の一方に加担しないようにしながら、クライエント自身の自己動機づけを促進する方法です。
「でも」を使うと、チェンジトークだけに加担することになってしまいます。
私は「一方で」一辺倒なのですが、「一方で」以外の接続詞にどんなものがあるかみんなで考えてみました。
教科書的には「そして」「それから」、なども載っているのですが、実際に使ってみるとけっこう変な感じで使いにくいんですよね。
そんな中、参加者の先輩がひらめいたのが「と同時に」なんですよ!
おお~、そんな手があったか~、ちょっと勝手に公開しちゃっていいのかな?っていうくらいナイスアイディアだな、もらっちゃお、使ってみちゃお。
MIの初心者では、維持トークを無視するのがなかなか難しい方がいますが、両面の聞き返しは文字通り両面の気持ちに寄り添っている感じがあって、受け入れやすいと思います。
と同時に、チェンジトークの印象を強め、変化へと会話をしっかりと方向付ける役割も果たしますから、維持トークへの応答の常とう手段として身につけておきたいですね。
薬どのくらい余ってますか?
精神科では患者さんが薬を飲まなくなって再発するケースが多いので、スタッフは患者さんがちゃんと薬を飲んでいるかどうか確認することがあります。
1つはそれとなく確認する方法です。
昼薬がある人はデイケアで薬を飲めているか観察することがあります。
でも滅多に無いか、昼に主剤を飲んでいる人が少ないですしね。
でも、私もデイケアのごみ箱を漁って、捨てられたPTPシートを確認した経験はあります。患者さんの精神状態が不安定な時に、「ああ、飲んでても具合悪いんだな」という確認ができました。
訪問看護などアウトリーチのスタッフにとってはこの服薬確認が重要な任務というか、求められる部分だったりします。
普段から薬の残数確認をすることがルーチンになっている患者さんはいいのですが、あまり見せたがらない患者さんもいるようです。
それで「薬飲めてますか?」などと口頭でたずねるわけですが、答えは普通「はい、飲めてます」なので、本当に飲めているかどうか結局わからないということが起こります。「本当に飲んでますか?」って聞くわけにもいかないでしょうしね。
とある機会に、どこぞの病院のアウトリーチを担当するお医者さんが言っていた聞き方はこうだそうです。
「薬どのくらい余ってますか?」
これは、なるほど。
そもそも処方通りにキチンと服薬している患者さんのほうが少ないと言われていますし、拒薬せずとも飲み忘れることは普通ですから、それを前提にして正直に言ってもらう確率を上げる作戦ですね。
この言い方、私も使ってみたことがあります。その患者さんは一瞬「???」ってなってましたが、薬の確認をさせてくれました。
私が考えた変形バージョンは
「薬はどれくらい飲み忘れる?」
これもけっこういいと思いませんか?
拒薬という感じは無いけど、服薬管理は雑そうな患者さんにはいいかなと。
とはいえ、このような聞き方が最適解とは思っていません。
使いますけど、良い方法というわけでもないです。
なんだかやっぱり患者さんに鎌をかけるというか、誠実じゃない感じはしますよね。
「飲んでる?」って普通に聞いても正直に話して大丈夫っていう、そういう信頼関係があることが理想ではありますね。